ある産婦人科医のひとりごと

備忘録、テーマはいろいろ

もしも昔の医療水準に戻ってしまったら...

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我が国の妊産婦死亡率の推移を見ると、1950年は10万分娩に対して176でしたが、2000年には6.3となりました。また、周産期死亡率(早期新生児死亡率と妊娠28週以後の死産率との合計)の推移を見ても、1950年は出生1,000に対して46.6でしたが、2000年には3.8となりました。

これらのデータから、この五十年間で分娩の安全性が著しく向上したことがわかります。また、現在の我が国の周産期医療は世界でもトップレベルの水準に達していると考えられます。

しかし、今でも実際には、1,000人に4人の赤ちゃんが、また1万人に1人の母親がお産で亡くなっているわけですから、現在の医療水準であっても、必ずしも、一般に信じられているように『お産は母児ともに安全』とは限りません。

まして、万一、このまま地域から産婦人科医が絶滅してしまって、昔(五十年前)の医療水準に戻ってしまったら、現在の何十倍もの母児がお産で亡くなりかねないということを一般の人達にもよく理解していただきたいと思います。

崩壊の危機に直面している地域周産期医療体制を守ってゆくために、我々は今何をしなければならないのか?何ができるのか?それぞれの地域の実情に合わせて、長期的な視野に立って、地域全体で考えてゆかなければならないと思います。

『自然分娩』と『医療で管理された分娩』

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昔は普通だった自宅分娩は、1950年には95%、 1960年でも50%を占めていましたが、その後は減少し、1990年頃には自宅分娩は0.1%程度まで減少し助産所の扱う分娩を併せても1%強に過ぎなくなり、この数字はその後ほとんど変わっていません。

近年、病院・診療所での分娩が全体の99%近くを占めるようになり、分娩は昔とは比較にならないくらいに安全性が高まりましたが、病院の『医療で管理された分娩』に不満や反感を抱く妊産婦さんも決して少なくないことは事実です。

分娩全体の95%までは正常分娩ですから、たとえ分娩場所が病院であっても、妊娠・分娩経過が正常であれば、助産師の介助で『自然分娩』を目指すべきなのは当然です。

問題は正常の分娩経過の途中で異常事態が起こった時で、産科では結果が不良の場合は医事紛争が多発します。残念ながら、医療事故による医事紛争は産科がもっとも多いです。これは『お産はうまくいって当たり前』と一般の人が考えるようになったことも一因だと思われます。

リスクを持たないと考えられる低リスク妊婦であっても、破水後になかなか陣痛が始まらず分娩が遷延したり、微弱陣痛・回旋異常・狭骨盤などのために分娩が停止したり、胎児仮死の症状が現れたり、正常分娩の後に弛緩出血を起こしたりなど、分娩の前後にはさまざまな異常が発生する可能性があり、その発生前の予測は非常に困難です。

従って、分娩の経過が正常であれば、余計な医学的処置は一切ひかえて『自然分娩』を目指すのは当然のこととしても、分娩の途中で医学的処置が必要となった時点において直ちに必要な医学的処置が実施できるような分娩環境が望ましいと思います。

また、分娩を取り扱う医療施設は、『低リスク妊婦の自然分娩』を中心として患者サービスに尽力する一次医療施設(民間の診療所など)と、『ハイリスク妊婦の分娩管理、異常分娩の緊急救命処置』を中心として集中的な治療を行う高次の医療施設(総合周産期センター、地域周産期センターなど)の2群に分化しつつあり、医療施設間の緊密な連携(病診連携、病病連携)が不可欠と考えられます。

持続可能な周産期医療システムの構築

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産婦人科医の頭数だけを見ると、名簿上はまだけっこう残っているようにも見えますが、産婦人科医の高齢化が急激に進んでおり、分娩への対応などの実戦力という点では急速にダウンしつつあります。

私自身、五十歳代の半ばで今の職場の定年退職まであと十年そこそことなり、老化現象も著しい今日この頃ですが、そんなロートルの私でも地域の産婦人科医の中では若手の部類に入ってしまいます。地域の開業の先生で私より年下は一人もいません。

現状のままでは産婦人科医は絶滅の危機です。やはり、元気いっぱいの若者がどんどん産婦人科に入ってきて、産婦人科医の平均年齢を大幅に下げてもらわないことには、この業界の先行きは非常に厳しいです。

今の現役世代が業界を去った後も、地域の周産期医療が持続・発展できるように、地域の周産期医療システムをしっかりと整えて、次代の周産期医療を担う後継者達を育成していくことが、今後の最重要課題だと考えています。